【 ポーランドのサフィラン社訪問記 】
ポーランド北東部の湖水地方の美しい町にサフィラン社はありました。
フランスの伝統あるリネン専門の紡績工場がポーランドに生産拠点を移したのは1990年代のことでした。
1778年にフランスのARMENTIERESという町でサーモンという家族がフラックスからリネンの糸を作る会社を設立したのがはじまりです。
現在では、サフィラン社の糸を生産する工場はポーランドに2か所、本部のフランスではフラックスの調達とリネンの糸の営業を世界各国におこなっています。
【 18世紀から続くフランス資本の歴史と伝統ある紡績工場 】
【 訪問時には日本の国旗を掲げてくれました 】
【 工場を案内してくれた製造ライン責任者のBenoitさん 】
製作責任者のBenoitさんに工場内を見学しながらフラックスからリネンの糸ができるまでを詳しく説明していただきました。
リネンの糸の品質は良質のフラックスの種を蒔くところからはじまります。
フランスの北西部の契約農家が種を蒔く時期からサフィランのフランス本社の担当者が毎月のように畑に行って状態をチェックしているそうです。
フランスの北西部以外の地域でもフラックスの栽培を試みましたが、微妙に気候が合わないために納得のいく品質が得られず、現在は全てフランスの契約農家のフラックスを使用してリネンの糸を作っています。
フラックスは4月に種まきをして7月中旬から8月にかけて収穫されます。
フラックスはデュー・レッティングという雨露に晒して腐らせて中の繊維を取り出す方法で処理されます。
デュー・レッティングの時の天気が非常に重要になります。
雨が多すぎると腐りすぎてしまい、天気が良くて乾燥しすぎると逆にうまく腐らないそうです。
デュー・レッティングの時期の気候はフラックスがリネンの糸になった時の色や品質に大きく関わってきます。
フラックスがリネンの糸になるまでの背景を知って、「今年は去年に比べて明るい色だね。」と年毎の変化を楽しめるようになりました。
個人的に気になっていたフラックスを栽培するときの化学肥料や農薬についてもお聞きしました。
フラックスの栽培では畑がやせてしまうので、一度フラックスを栽培した畑では7年間はフラックスを栽培せずに他の作物の栽培をしています。
このような転作の方法は化学肥料や農薬をほとんど使わないので、オーガニック栽培と変わらないフラックスの栽培となります。
【 フランスの契約農家から届いたフラックス 】
ポーランドの糸工場にはフランスの契約農家でデュー・レッティングをした後の繊維束(1ロール100キロ位)が届きます。
繊維束には、各契約農家の畑と、デュー・レッティング後の加工をした場所が明記されていました。
各契約農家から届いたフラックスは、品質ごと(色と繊維の長さ)に分けられます。
事前に取り寄せたサンプルと同じかどうかチェックして、品質が合わなかったら返品することもあるそうです。
【 届いたフラックスは品質ごとに仕分けされます 】
繊維束は人の手で200グラム位の繊維束に分けて、櫛のような機械に通して短い繊維と長い繊維に分けられます。
一番長く取れた繊維はリネン100%用に、短い繊維は太い糸になったり、繊維の長さが同じコットンとの混紡にまわされ、リネンコットンとして生まれ変わるものもあります。
【 櫛のような機械に通して短い繊維と長い繊維に分けます 】
リネンの紡績方法には湿式(wet spinning)と乾式(dry spinning)の2種類があります。
細い番手の糸はwet spinningの工程で作られます。
訪問した工場ではwet spinningで全ての糸が作られ、もうひとつの糸工場ではdry spinningで太い糸を作っています。
フラックスの品質は毎年の気候に大きく左右されるため、工場では前年までに製作した繊維束とブレンドすることで色や品質を安定させるよう工夫をしています。
リネンの長い繊維は、繊維の向きを平行に揃えながら引き伸ばし、均一な太さのテープ状にしていきます。
【 自然から生まれた色、亜麻色 】
【 紡績方法は2種類、湿式(wet spinning)と乾式(dry spinning)】
【 細い番手の糸はwet spinningで作られます 】
【 1m 35gの糸が加工を経て、1m 5gの細い糸に 】
細い糸を作るために、櫛のような機械にとおして圧力をかけてひっぱるという工程を何度も繰り返していきます。
1m35グラムの糸が最終段階では、1m5グラムの細い糸になります。
櫛のような機械にフラックスの繊維をとおして圧力をかけながらひっぱるという工程を繰り返していく過程で、短い繊維を取り除いていくわけですが、それでも短い繊維が糸の中に混入してしまうことがあります。
糸に混じった短い繊維が、生地を織る時にネップとなる場合があるのです。
工場の品質管理室では、短い繊維が混入しないように糸の製作過程をコントロールするのは難しいそうですが、工場では一定の許容範囲を設けながらネップの少ない生地ができる糸作りを目指して、糸の強度、色の明暗を専門的な機械でチェックをしていました。
【 パッキングされて生地を織る工場へ出荷されます 】
【 営業のAndrzejさん、私、社長のAndrzejさん 】
サフィラン社はEUの厳しい基準をクリアして「Masters of Linen」の正式な認定を受けています。
次のような、工場のフラックスの1ロットの定義がその品質管理の高さを示しています。
「同種類のフラックスの種を4月のある日1日で撒き、収穫時は7月から8月のある日1日の中で刈り取ったフラックスであること。」
別の日に種がまかれたり、別の日に刈り取られたフラックスは、別のロットとして管理されるのです。
フラックスの畑からリネンの糸が出来るまでの長い道のりを知ることで、より深くポーランドリネンに愛着を持てるようになりました。
リネンの生産に関わっている全ての人への感謝の気持ちを忘れずに、ポーランドで紡ぎ織られたリネンを大切に扱っていきたいと思います。