【 アルトルさんのフラックス畑を訪ねました 】
リネンを扱う仕事を始めてからずっとフラックス(1*)の花を見てみたいと夢見ていました。
思いがけず実現したのは2008年の夏のことでした。
ポーランドのリネン工場の周辺でフラックスの栽培をしている農家があると聞いてさっそく訪ねました。
農場主のアルトルさんに案内して頂いた100ヘクタールもあるフラックス畑はすでに収穫を終えて、繊維を取り出すために畑にねかせるデューレッティング(2*)が始まったばかりでした。
デューレッティングの醗酵は8月の湿度と気温に大きく左右されます。
1* フラックスは原料段階の呼び方。
糸になってからの工程ではリネンと呼ばれます。
2* デューレッティング
収穫したフラックスを畑に1ヵ月程ねかして雨露で表皮を腐らせて中の繊維を取り出す方法。
ポーランドでは、共産主義時代の1950年から60年代まで生産効率を求めて一時ウォーターレッティングを採用しましたが、コストが掛かることと、レッテングをする過程で水を汚染してしまったために、現在はデューレッティングで糸を生産しています。今では、ヨーロッパ全体がこの方法で糸を生産しているそうです。
【 農場主のアルトルさん 】
アルトルさんは、フラックスの種は品質の良いベルギーの種を選んでいます。
フラックスは成長が早く畑の土が痩せてしまうために、土作りにコストが掛かるそうです。
手間ひまかかるフラックスの栽培をやめてしまう農家も多い中、アルトルさんはフラックスの栽培はとても魅力的だといいます。
将来はフラックスの栽培からリネンの生地作りまでの全てに関わっていきたいとも話してくれました。
アルトルさんがデューレッティング中のフラックスを拾い上げて茎を折り曲げて繊維を見せてくれました。
「わぁ綺麗!」
太陽の光に照らされたグレイ色に輝く繊維を見て声を上げてしまいました。
茎の中から現れた繊維は強くひっぱてもなかなか切れません。
フラックスのグレイ色は土の色が染みこんだ自然の色です。
リネンは太陽の恵みを受ける農作物と同じなんだと実感した瞬間でした。
フラックスと付き合うのが楽しいと言ったアルトルさんの言葉がよみがえります。
畑を最後にしようとした時、アルトルさんが声を掛けてくれました。
「季節外れのフラックスが畑の片隅で花を咲かせているよ。」
目の前に現れた憧れのフラックスの花は小さくて青い可憐な花でした。
こんな可憐な植物があの丈夫なテキスタイルに生まれ変わるなんて不思議です。
正午までしか咲かないといわれるフラックスの花に出会えたことが嬉しくて、風に揺られる小さな花を時間が許す限り眺めていたい気持ちでした。